2016年4月にスタートし、テレビやインターネットなどで大きな話題を呼んだ電力小売りの自由化。そのちょうど1年後にガスに関しても小売りの自由化が始まったことをみなさんはご存知でしょうか。 消費者が自由に供給会社を選択できる点は自由競争を促す意味でも重要ですが、自由化したことで家庭にはどんなメリットがあるのでしょうか。一足先に始まった電力自由化と比較しつつ、ガス自由化について検証していきます。

電力自由化の1年後に始まったガス自由化

一般家庭における電力自由化は大きな話題となったこともあり、みなさんの中にも電力会社を変更したという方もいるのではないでしょうか。

しかし、1年後の2017年4月に始まったガスの自由化にかんしては注目度もイマイチ。大きな話題にあがることもなかったため、その事実すら知らない方もいるかもしれません。

そもそもガスの自由化によってどのような変化があるのでしょうか。以下でポイントを整理します。

ポイント1:自由化されたのは都市ガスのみ

現在ガスの供給は以下の3種類に分けられています。

1.都市ガス

ガスの導管を通って供給されるもの

2.簡易ガス

団地などの敷地内にガスの発生装置を置き、各家庭に供給されるもの

3.LPガス

LPガスの入ったボンベを各家庭に配達することで供給されるもの

今回の自由化では地域ごとに独占供給を行ってきた都市ガスが自由化されましたが、簡易ガスやLPガスに関しては従来通りです。

しかし、LPガスの需要が縮小傾向にある今、今回の自由化に伴ってLPガス会社の都市ガスへの参入の可能性も十分に考えられます。

ポイント2:都市ガス自由化の目的

都市ガスを自由化する目的の1つに競争原理による料金の値下げやサービスの充実が挙げられます。

またガスの供給を分散させることで安定供給の体制を強化するという狙いがあるようです。

ポイント3:ガス会社を変更しても工事は不要

都市ガスは導管を通って各家庭へ供給されます。そのため、ガス会社を乗り換える場合、新たに配管工事を行う必要があると考える方もいるかもしれません。

しかし、ガスが自由化してもすべてのガス会社がこれまでに敷かれたガス管を共同利用できるため、工事などを行う必要はありません。

ポイント4:利用者から見たガスの自由化

ガス会社を乗り換えたとしても工事などは必要なく、ガスの品質や保安点検の実施、緊急時の対応についても今まで通りガスを利用できます。

また、Webなどでも手続きが可能なため、ガス会社の乗り換えも比較的容易と言えるでしょう。

利用者にとって変わる点はガス料金の支払先とガス料金くらいであり、あくまでも書類上の違いだと言っても差し支えありません。

ガス自由化と電力自由化の相違点

ガス自由化と電力自由化。どちらも大きな変化であるにもかかわらずその話題性には大きな違いがありました。

2つのエネルギーの自由化における違いはどのようなところにあるのでしょうか。主に以下の2つが挙げられます。

違い1:市場規模の違い

まずガス自由化と電力自由化の大きな違いといえば市場規模です。

電力自由化に関する市場規模が約8兆円といわれているのに対して、ガス自由化における市場規模は2.4兆円。これはガスの自由化の対象となる利用者が少ないためだと言えます。

ガスにはもとからLPガスなどの選択肢があることや、近年ではガスを使用しないオール電化の家庭も増えていること、さらにガスを届けるための導管がつながっていないエリアではそもそも都市ガスの供給ができないことなどが理由として挙げられます。

違い2:乗り換えの動機の有無

2011年の東日本大震災以降、電力不足の報道や脱原発の考えなど電力に対しての関心は非常に高まりました。

そのため電力自由化の際は料金の問題だけでなく、再生可能エネルギーへの取り組みなども乗り換えの動機となっていると言われています。

しかし、ガスに関しては主な動機となりうるものが値段のみであることや電気代に比べて元々の値段が安く、節約の効果を実感しづらい点が大きな違いと言えるでしょう。

新規参入が難しいのがガス市場の特徴

ガス自由化に対する問題点としてガス市場への参入が難しいという点が挙げられます。

電力市場への参入は設備が整っていれば太陽光や水力、風力などを利用しての発電が可能ですが、ガス市場へ参入するためには天然ガスを企業や海外から調達しなければいけません。

さらにそれに伴って必須となる設備を持っている企業も現在ではガス会社、電力会社、石油会社がほとんどです。新規参入に際して多くの準備を求められることが新規参入のハードルを高くしています。

また、たとえ設備や原料の調達ルートを持っていたとしても、ガス導管など供給設備の問題があります。

先ほども説明したようにガス導管は共同利用することが可能です。しかし、借りることができるガス導管がない場合には、参入する企業が新設しなければなりません。

ガス管の新設には莫大な費用がかかるため、市場規模を考えた際に費用を回収できる見込みも不透明であり新規参入を妨げている一因と言えるでしょう。

2017年4月にガスの自由化が始まったものの、現状では電力よりも新規参入が難しく、企業による価格競争は起こりにくい状況になっています。

そのため、ガス会社を乗り換えることで大きなランニングコストの節約は見込めないかもしれません。しかし、節約は「ちりも積もれば山となる」が基本であり、実際に乗り換えをするかではなく、このようなコスト削減のチャンスを常に模索し続けることこそが重要なのです。