ロハは「タダ」のこと
ロハは「只(ただ)」という漢字が分解して出来上がった、無料を意味する言葉です。
言葉が誕生した時期はおそらく明治時代。
「日本俗語大辞典」(米川昭彦編、東京堂出版、2003年)という辞書には1983年(明治16年)の用例が登場していました(夫れとも下等見習のロハの分になるか)。
また同辞書は、ロハ台、ロハベンチという複合語も紹介していました。これらはいずれも公園などに置いてあるベンチ、つまり無料で利用できるベンチを意味します。
このように漢字を形状的に分解するタイプの言葉遊びが昔から存在します。
「米寿」もそのひとつ。「米」という漢字が「八十八」に分解できるため、「八十八歳」のお祝いの意味になるわけです。
また、比較的最近の俗語では「タヒる」(死ぬ)も好例でしょう。「死」を「一タヒ」に分解して、そのうち「タ」と「ヒ」を取り出して動詞化した表現です。
さらには直木賞の由来として知られる作家・直木三十五(なおき・さんじゅうご)の名字も「分解系」の言葉遊び。彼の本名は植村宗一というのですが、その名字のうち「植」の部分を分解すると「直木」となるわけです。
そういえば落語「平林」では、平林を分解した「一つと八つで十っ木っ木(ひとつとやっつでとっきっき)」という表現も登場しました。
一六銀行は「質屋」のこと
さて、こちらも死語に属する言葉だと思いますが「一六銀行」(いちろくぎんこう)という言葉もあります。これは「質屋」を意味する言葉。
まず駄洒落によって「質」を「七」に置き換えます。その「七」は「一と六の和」と考えることができますね。そこで質屋のことを一六銀行と呼ぶわけです。
この言葉が誕生したのも明治時代のこと。実は当時、一六は日本語として既知の言葉でした。
ふたつのサイコロを振った時に一と六の目が出ること(七世紀後半に登場した表現)や、江戸時代の休日(末尾に一と六のつく日)のことを、それぞれ一六と呼んでいたのです。
一六銀行はそれら既存の言葉に着想を得た表現だったのでしょう。
なお一六にはこのほか、関西の泥棒が使っていた隠語で「強盗」という意味もあるのだそう。
強盗のことを隠語で「おどりこみ」というのですが、踊りといえばお盆、お盆と言えば陰暦の七月、七といえば一六という連想も働いた結果、一六が強盗の意味になったのだそうです。
十三屋は「櫛屋」のこと
最後に江戸時代の業態も紹介しましょう。
前述の一六銀行と似ている成り立ちの言葉に「十三屋」(じゅうさんや)があります。これは櫛屋(くしや)を意味する言葉。
櫛(くし)屋を九四(くし)屋と置き換えて、その九と四の和を取ることによって、十三屋と称する理屈です。
またもう少し凝ったところでは「十七屋」(じゅうしちや)という言葉もありました。これは江戸時代における飛脚屋の別名です。
まず十七屋は十七夜の洒落。十七夜は陰暦十七日の夜のこと。そしてこの日に出る月のことを「立待ち月」(たちまちづき)といいます。
ちなみに陰暦十五日に出る月が「満月」、十六日に出る月が「十六夜」(いざよい)です。
そして立待ち月のうち「たちまち」という読みが「たちまち届く」の「たちまち」と掛かることから、十七屋が飛脚屋を意味するわけです。
この言葉はもともと、十七屋孫兵衛が興した飛脚屋を指す固有名詞でした。しかし十七屋は、御用金に関連する不祥事により土地・財産が没収され廃業。
結局、飛脚屋の別名としてのみ十七屋の呼称が残ったのだそうです。
――ということで今回は遊び心があふれる「お金やビジネスの言葉」を紹介してみました。