これまで幾度となくバレてきた「国産偽装」が最近、また発覚した。農林水産省が「熊本県産」と売られていたアサリのDNAの検査をしたところ、なんと97%が外国産であることが判明したということである。このニュースが全国的な話題となると、いつもの様に次々と同じ事例が告発される。
静岡では、30の卸売業者を介して県内外の400店舗以上のスーパーなどで、販売されていた「鳴門産ワカメ」がすべて外国産であることが発覚した。奈良の老舗うなぎ屋が「国産ウナギ」として提供していたものが、実は中国産だったというニュースも注目を集めた。もちろんこれらが氷山の一角であることは間違いないであろう。
2001年の雪印の牛肉偽装事件からこの20年間、ありとあらゆる分野で「外国産」を「国産」と偽る手口が見つかっている。熊本産アサリも20年以上前から延々と繰り返されていたらしい。
今や「産地偽装」は日本の「食」ではよくあるお話になっている。これ等の問題が、消費者をだまして儲けようとする業者の悪しき習慣とか、業界の閉鎖性やモラルの低さを嘆くということでは、本質は見つからない。この20年あまり産地偽装が続く原因は全てに「安い市場」に成り下がったメイドインジャパンの現実を反映しているのだ。
安くないと維持されない日本の消費者の購買力の低下と、それでも国産にこだわる消費者意識とのギャップが、こういう現実をもたらしている。
ご存じのように、日本はこの30年間、他の先進国が着々と賃金を上げてきた中で全く賃金が上がっていないどころか下がっている。今や国民の平均年収は先進国の中で最下位となっている。30年前は世界のトップにいた平均年収は、今は韓国にも抜かれて、韓国の90%にまでなっている。
2月17日に発表された国際決済銀行の実質実効為替相場は、円の価値が50年前の円安水準となっているとメディアが報じた。通貨の価値は究極的に自国の国力の反映である。近年、通貨の実質購買力の低下は、世界での魚介類や肉類の買い付けにおいて、中国に競り負けるというニュースが散見されるようになっている。日本の製造業がコストの低下で世界での競争力を維持している現状では、日本の賃金が上がらないのは自明である。国民の賃金が上がらないということは、その消費市場は限りなく安いものしか成り立たない市場である。
日本国内の池で養殖されたウナギは「国産うなぎ」と名乗ることが出来るが、実はその稚魚のほとんどが外国から輸入されたもので、それを国内の池で1年飼育すると立派な国産ウナギとして、うなぎ屋で食べられる。我々はそれをしたり顔で「やはり、ウナギは国産だね」というのである。
日本人のふところは世界でますます貧乏となっているが、その意識のプライドだけは、かつての「ジャパン・アズ・ナンバーワン」のままなのである。
産地偽装の問題が起きるとメディアは、業界の闇は深いというような報道をするが、希少化していく国産食料が、安いままで永遠に口に出来るという消費者の幻想と、その現実を指摘しないメディアの闇のほうがよっぽど深いと考えるのである。