切り口(1)法的、経済的責任のほかに必要なものは?
まずひとつめの切り口は「CSRとは、企業にとっての『新しい責任の取り方』である」という見方です。
そもそも企業の従来的責任には、どんな責任があったのでしょうか?
まず考えられるのが「法的責任」です。ごく当たり前の話ですが、企業が事業を行うには、法律・法令などを守らなければいけません。
勝手に他人のものを盗んでそれを売ってしまったり、広告で嘘をついてしまったりすると、それは法的責任を全うしていないことになります。
これに加えて、企業には「経済的責任」もあります。例えば株式会社が株主に対して何らかの形で利益を還元することも、経済的責任のひとつとされます。
このような責任を果たす前提として、企業は経済的利益を確保することも必要とされます。
そして以上に加えて必要とされるのが、まさに「倫理的責任」というものです。「道義的責任」などの言い方もあります。
例えばある会社がきちんと法律的責任を果たしており、同時に経済的責任を果たしているとしても、倫理的責任を果たせていない場面は色々考えられます。
実際、途上国における過剰労働の問題も「法律的責任と経済的責任に準拠した契約」に基づいて行われています。
そういう種類の問題に対応するためには、法的責任や経済的責任だけでなく倫理的責任も考えなければなりません。これがCSRの意味をスッキリ把握するための、一つ目の切り口です。
切り口(2)誰がステークホルダーなのか?
ふたつめの切り口は「CSRとは、企業のステークホルダーを社会全体にまで大きく拡張した考え方である」という見方です。ちなみにステークホルダー(stakeholder)とは利害関係者のことです。
企業にとっての伝統的なステークホルダーとは従業員、役員、取引先、消費者、株主といった範囲に限られていました。
企業が企業である以上、従業員の利益は守られるべきですし、もちろん役員の利益も守られるべきです。取引先が損をするような企業は嫌われるでしょうし、消費者が割を食う企業も嫌われることでしょう。
そして株主(投資家)にとっては、企業の好調な業績こそが利益の源泉となるのです。
いっぽうで「従業員・役員・取引先・消費者・株主にとって利益になりさえすれば、他の人にとっての不利益は一切気にしなくてよい」という考え方もありえます。
実際、温暖化ガスを大量に排出する工場を持つ企業は、確かに狭い範囲のステークホルダー(従業員・役員・取引先・消費者・株主)にとって有益な存在ですが、広い範囲のステークホルダー(社会全体)にとって不利益な存在ともいえます。
つまりCSRとは「ステークホルダーの範囲を拡張して、責任の及ぶ範囲も広げた考え方」ともいえるのです。
切り口(3)『何を』『どうするか』を知る
そして3つめの切り口は「CSRとは『何を』『どうする』ことなのかを知る」という見方です。
そのアンチョコとして知って欲しいのが「ISO26000」と呼ばれるアウトラインです。これは国際標準化機構(ISO)が、企業に限らない「組織の社会的責任」をまとめた規格のこと。
2010年に発行されました。このガイドラインに「『何を』『どうする』ことなのか」が書いてあります。
このうち「何」に相当するのが「7つの中核的主題」という部分。具体的には組織統治、人権、労働慣行、環境、構成な事業慣行、消費者に関する課題、コミュニティ参画および発展、という主題が設定されています。
いっぽう「どうする」に相当するのは「社会的責任の原則」という部分。具体的には説明責任、透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重、法の支配の尊重、国際的行動規範の尊重、人権の尊重という7つの原則が示されています。
さらに具体的な中身を知りたい場合は、ISO26000について詳しく調べてみるとよいでしょう。
このほか「CSRとは『何を』『どうする』ことなのか」を知るには、「SDGs」(エスディージーズ、Sustainable Development Goals)、すなわち「持続可能な開発目標」について調べてみるのもよいでしょう。ここでは詳細を省きます。
ともあれCSR(企業の社会的責任)の概念をスッキリ知るには「法的・経済的責任に加えて倫理的責任も取ること」「広範な利害関係者へ配慮すること」「7つの中核的主題について、7つの原則を守ること」と理解すると分かりやすいのではないでしょうか。