ここ数年の変化として世界はグローバル資本主義とリベラル民主主義から、反グローバリズムと反リベラル主義の傾向がじわじわと世界を席巻していた。その一番の象徴はまさしく、アメリカ・ファーストを旗印としたトランプ大統領の出現であろう。
中国、ロシアをはじめとして、世界は分断と自国至上主義のポピュリズムに少しずつ侵食され続けていた。
グローバリズムによってもたらされた、自由と大競争の時代が行き過ぎた結果、国家も個人も、強者と弱者が鮮明となり、格差を拡大させ、混迷、混沌とする不安定な世界を作り出し、その結果が大衆の反乱として、エリート資本主義を拒絶するポピュリズムとして大きなうねりとなっていた。
トマ・ピケティが、数年前に著したグローバルな格差拡大に対する批判が、資産を持つ富裕層に益々、富が集中して、多くの国民勤労者が取り残されていく現実を抉り出した。
国連もその現実に警鐘をならし、2015年9月の国連サミットで「SDGs」が採択された。2016年から2030年までの「各国の持続可能な開発目標」の設定である。
具体的には「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「全ての人に健康と福祉を」「質の高い教育を全ての人々に」「安全な水とトイレを世界中に」「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「平和と公正を全ての人に」「人や国の不平等をなくそう」などなど、17の開発目標がゴールとして示された。
またエリート資本主義の本家の立場からも2019年8月には、米国の名だたる経営者が所属する経営団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が株主第一主義を反省し、従業員や顧客、取引先や地域社会の人々にも配慮をする人間中心の資本主義への転換の共同声明を発表した。多様なステークホルダーにバランスよく利益をもたらし、資本主義の持続可能性を高め、将来的にも企業価値を高めるという方針である。
この流れを一挙に加速する環境として新型コロナウィルスが出現した。コロナは今だ世界で大流行中であり、第2弾が欧米を中心として猛威をふるっており、再び欧米はロックダウンに舞い戻ろうとしている。自国内だけでは解決不能であり、世界が共同してコロナ撲滅に歩調をあわせなければならないということを、世界は身に染みてわかろうとしている。
かつての歴史上の感染症のパンデミックとの戦いの後、新しい世界が登場したように、コロナがその後にもたらす世界の知恵は、もう単なる反グローバリズムや反リベラルではなくて、国も人々も共存して共栄しなければならないという、価値観ではないだろうか。ポスト・コロナがもしこの様な共存・共栄の新しい資本主義を生み出すなら、新型コロナウイルスの災禍を乗り越える上で、大きな意味を持つと言えるだろう。
この概念は実は存命であれば、我が国では「ノーベル経済学賞」に一番近かった故宇沢弘文・東京大学名誉教授が提唱した「社会的共通資本主義」が公共経済学の世界的な学説として残されている。最近急速にチラチラと聞こえてきた「共存主義」の主張はすでに、極めて先見性の高い概念として、はるか昔に我が国の経済学の泰斗である宇沢教授から提唱されていたことを再認識したい。
でも皆さん、このコロナの犠牲に決してならないように気を付けましょう。折角のコロナ後の世界を、見るまでは生き延びましょう。