株式を売却した場合、購入時よりも高く売れた場合には所得税と住民税が発生します。今回の記事では、これらの税金の仕組みをお伝えするとともに、確定申告の手続きをどのように進めれば良いのかをお伝えします。

株式を売却したときの「譲渡所得」の計算方法

個人が株式を売却し、売却益が発生したときには、「譲渡所得」として所得税と住民税を課せられます。譲渡所得は、以下のとおり計算し、計算の結果プラスになった場合、その金額に応じて税額が発生します。

譲渡所得=譲渡価額(売却収入)-必要経費(購入費・手数料)

給与や事業で得た所得などであれば、「総合課税方式」により、すべての所得を合算した金額に応じて税率が変わります。

ところが、株式の譲渡所得は「分離課税方式」を適用されるため、以下のとおり、単一の税率(所得税15%、住民税5%)で税額計算され譲渡所得の金額がいくら増えても税率は変わりません。

また、所得税と住民税のほかに、平成25年分から平成49年分までは、復興特別所得税として別途2.1%の税金が必要となりますので、合計すると譲渡所得に対して20.21%の税金がかかるということです。

税金を天引きするかは選択できる

以前は、株式を売買すると自分自身で税額を計算して、確定申告をする必要がありました。しかし現在は「特定口座制度」を利用することによって、手続きを簡単に行うことができます。

特定口座とは、金融商品取扱業者(証券会社等)ごとに設ける口座です。この口座に株式等を預け入れて売買すれば、自分でいちいち計算しなくとも、証券会社等が譲渡所得を計算してくれます。

毎年1月頃に、前年の1月1日から12月31日までの売買を集計した「特定口座年間取引報告書」が証券会社等から郵送されるため、この書面で1年分の譲渡所得を確認することができます。

さらに、特定口座を開設するタイミングで、「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」を選択することができますが、ここで「源泉徴収あり」にしていれば、譲渡所得に応じた所得税や住民税を天引きして、残った金額だけが支払われます。

そうすると、個人で確定申告や納税をする必要がなくなりますので、時間や手間をかけず株式の売買をしたい人は、源泉徴収ありにすると良いでしょう。

一方、特定口座を利用しない場合や、特定口座で「源泉徴収なし」を選択した場合、所得税や住民税は差し引かれませんので、自分自身で確定申告書を作成し、納税も行う必要があります。

この場合、収入が発生した翌年の2月16日から3月15日までの間(休日の場合は翌日)に申告しなくてはなりませんので、その分手間がかかってしまうことに注意しましょう。

 株式の売買で損が出たら、確定申告をした方がおトク

1年分の譲渡所得を計算してマイナスが出た場合、特定口座の「源泉徴収あり」を選択している場合であっても、確定申告をした方が良いでしょう。

たとえば複数の証券会社等で取引を行っている場合、特定口座の計算では、それぞれの証券会社ごとに譲渡所得を計算されますが、確定申告をすることで、合算して計算することができます。

もし、1年間にA証券で30万円の赤字、B証券で100万円の黒字が出た場合、B証券は譲渡所得100万円として税金を天引きしていますが、確定申告をすると、100万円-30万円=70万円となりますので、その分税額が低くなり、還付金が戻ってくるのです。

また、確定申告をすると、「譲渡所得の繰越損失・繰越控除」を使えることもメリットです。

株式の譲渡所得がマイナスになっても、給料など他の所得と合算することはできないのですが、マイナスの金額を繰り越すことで、翌年以後に株式等で利益が出た場合に合算することができるのです。

たとえば、平成29年分の株式の譲渡所得が100万円の赤字、平成30年分の譲渡所得が130万円の黒字だとすると、確定申告をすることにより、平成30年分の譲渡所得を、130万円-100万円=30万円を基準に計算することができるというわけです。

ただし、このような計算をするには、複数年分を1回にまとめて申告することはできませんので、平成29年分、平成30年分の確定申告をそれぞれ行う必要があります。

なお、損失を繰り越せる期間は、3年間です。たとえば平成27年分の損失は、平成28、29、30年分まで繰り越せますが、ここまでに使い切れなかった損失は切り捨てられます。

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小林義崇 (こばやしよしたか)

81年生まれ、福岡県北九州市出身。埼玉県八潮市在住のフリーライター 西南学院大学商学部卒。 2004年に東京国税局の国税専門官として採用。以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事する。2014年に上阪徹氏による「ブックライター塾」第1期を受講したことを機に、2017年7月、東京国税局を辞職し、ライターとして開業。実用書や雑誌・WEBメディア記事を多数執筆。