ファストフード店の定番メニューであるナゲット。

例えば『広辞苑』(第七版、岩波書店)でこの言葉を調べると「一口大の鶏肉・魚などに衣をつけ、油で揚げた料理」という、お馴染みの意味が登場します。

しかしこれは、あくまで二番目の意味。広辞苑が最初に掲載しているのは「金塊、金属塊」という別の意味なのです。これは一体どういうことなのでしょうか。

貴金属などの塊(かたまり)、天然の金塊

ナゲットを英語で表記するとnuggetとなります。これを『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)で調べてみると、名詞だけでなんと10個もの意味が掲載されていました。

その最初の意味として登場するのが「(貴金属などの)塊」という意味。さらに2番目には「天然の金塊」という意味も登場します。

実はこれらがnuggetの本来の意味。チキンナゲットなどの料理は、そこから派生して登場した意味だったのです。

ちなみにnuggetの語源は、むかしの英語で「木材などの小片」を意味したnugという言葉。この言葉に「より小さい」ことを意味する-etという接尾辞が付いてnuggetに変化したようです。

日本語でいうと「どじょう」に「こ」がついて「どじょっこ」になる感じでしょうか。

天然金塊とチキンナゲットの見た目は驚くほど似ている

ではなぜ「天然の金塊」が「鶏肉に衣をつけて揚げた料理」の意味になったのでしょうか。

その理由は、ネットで画像検索をしてみれば理解できます。あなたも試しにgold nuggetという言葉で画像検索してみてください。

ちなみにnuggetでは駄目です。nuggetだけで検索すると、たぶん大量のチキンナゲットを目にすることになるでしょう。

いっぽうgold nuggetを検索すると、まるでチキンナゲットがピカピカに光ったような物体を発見できると思います。それが自然産出の金塊なのです。

とかく一般人が「金塊」という言葉から想像しがちのは「金の延べ棒」かもしれません。

これは専門用語でいうインゴット(ingot)や鋳塊(ちゅうかい)のことです。しかし、今回話題にしているnuggetとは「鉱床から直接産出された金の塊」のこと。

その形はまるでチキンナゲットのように凸凹しているのです。

揚げ物にナゲットという名が付いた経緯についてはよく分かっていませんが(1950年代にチキンナゲットの料理法が考案された当時、それはchicken crispieと呼ばれたそうです)、自然金塊の見た目が影響を与えていることは、ほぼ間違いないでしょう。

ナゲットと呼ばれる「金貨」もあった

さてオーストラリアの西オーストラリア州政府が運営するパース造幣局では、1986年から毎年、金貨(Australian Gold Nugget)を発行しています。

これを日本のコレクターは「ナゲット金貨」「カンガルー金貨」などと呼んでいます。この通称に登場するナゲットやカンガルーは、いずれも金貨の「裏面」のデザインが由来。

1986年から89年にかけては自然金塊(すなわちナゲット)の図柄が刻まれ、それ以降の発行分ではカンガルーの図柄が刻まれていることに由来するのです。

コイン商のウェブページでは、カンガルー金貨と称しながら「なぜかカンガルーの図柄が登場しない金貨」が紹介されることがありますが、それには「発行時期によるデザインの違い」という理由が存在していたわけです。

ということでナゲットの語源の話はここまで。

みなさんもファストフード店でナゲットを目にした時には、ちょっとだけ金塊や金貨のことを思い出してみてください。

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ライタープロフィール

もり・ひろし
もり・ひろし
新語ウォッチャー。1968年生まれ。電気通信大学卒。CSK総合研究所(現CRI・ミドルウェア)を経て、新語・流行語専門のフリーライターに。辞書・雑誌・ウェブサイトなどでの執筆活動を行う。代表的連載に日経ビジネスオンライン(日経BP社)の「社会を映し出すコトバたち」、現代用語の基礎知識(自由国民社)の「流行観測」欄など。