2009年の時点で、エビデンスの意味を知る人は8.5%
2009年、国立国語研究所が「『病院の言葉』を分かりやすくする提言」という資料を発表しています。
なぜここで病院が出てくるのかについては、ひとまず置いておきましょう。この資料ではエビデンスという言葉について、その認知率(聞いたことがある人の割合)と理解率(意味を知る人の割合)を紹介していました。
それによるとエビデンスの認知率は23.6%。理解率はわずか8.5%しかなかったのです。
現在ではこの数字がもう少し上昇しているような「気もする」のですが、筆者はその予想に関するエビデンスを残念ながら持ち合わせていません。
エビデンスとは「根拠」のこと
ずいぶん「もったいぶって」書いてしまいました。エビデンスの意味は至極簡単。「根拠」を意味します。そもそもエビデンスは英語のevidenceがカタカナ語になったキーワード。
英語の方のevidenceは「根拠」や「証言」を意味します。このうち日本語に流入したのは、主に「根拠」の方の意味なのです。
したがって冒頭に紹介した例文は「君の調べてきたその情報なんだけど、ちゃんと“根拠”に基づいた話なの?」とか「“根拠”のない話は信用できないなぁ」と言い換えることが可能なのです。
また「根拠」と言い換えてしっくりこない文章であっても、「証拠・拠り所・裏付け」などの言葉で置き換えれば、うまく理解できる可能性もあります。
例えば「そのプランのエビデンスを取ってきて」と言われた場合は、頭の中で「その計画の裏付けを取ってきて」と置き換えればよいことになります。
どうして日本語に「エビデンス」が流入したのか?
それにしても不思議なのが「どうしてゼロ年代以降、急にエビデンスというカタカナ語が普及したのか?」ということ。
実はこれには大きな背景があります。1990年代以降の医療分野で「EBM」という新概念が普及したのです。このことが、医療以外の分野にも影響を与えました。
EBMはevidence-based medicineを略した言葉。日本語ではよく「根拠に基づいた医療」と表現します。
これは従来的な治療法が、ともすれば「理論先行になりがち」だったことの反省から登場した概念でした。
ただ患者の立場から見ると、医師から「エビデンス」だの「根拠に基づいた医療」だのと言われても、それが何を意図しているのかが分かりにくいですよね。
そこで前述の国語研究所の資料では、医療分野のエビデンスの言い換えとして「その治療法が良いといえる証拠」という表現方法を提案しているのです。
このように業界によっては、エビデンスを単に「根拠」と言い換えただけでは足りない場合もあります。
実際、IT業界では「システムが正常に動作している証拠画面」のことをエビデンスと呼ぶ例もあるぐらいです。
もしもあなたがエビデンスという表現を「使う側」になった場合は、より適切な言い換えを検討してみるのも良いのではないでしょうか。
あわせて読みたい
・語彙力アップ!「お金」の古風な言い方を学ぼう
・お金に関する言葉「ゲルピン」の意味を知ってますか?
・商人(しょうにん)と商人(あきんど)。その語源を探る。
・フリーマーケットのフリーは、自由の”free”ではない
・「平成」の経済キーワードを、駆け足で振り返る