「自由の市」ではなく「蚤の市」
さっそく辞書を調べてみましょう。広辞苑(第七版)でフリーマーケットの項目を見ると、さっそく答えが載っていました。「フリー‐マーケット 【flea market】蚤(のみ)の市。フリマ」。
そう。ここで言うフリーとはfreeではなくfleaのこと。つまり蚤や虱(しらみ)のノミのことを指す言葉なのです。あまりのイメージのギャップに驚いた人もいるかも知れませんね。
語源が蚤である理由は、フリーマーケットの歴史に隠されています。そもそもフリーマーケットの始まりは、19世紀からフランス・パリ郊外の野外で毎週行われている、古着・がらくたの露店市でした。
その市の名前がmarché aux puces(マルシェ・オウ・ピュス)、英語ではflea market、日本語では蚤の市だったわけです。
ではなぜ古着・がらくたの市が、蚤の市と呼ばれたのでしょうか。
一説には「蚤が付くくらい古いものを売っていた」(参考「『サバを読む』の『サバ』の正体」NHKアナウンス室編、新潮社、2014年)との見方もありますが、いっぽうで「ノミの俗意『くだらない』『おんぼろ』に由来すると思われる」(参考「日本大百科全書・ニッポニカ」ネット版、小学館)との見方もあるようです。
日本の協会はfreeを名乗っている
とはいえ、日本人の多くはフリーマーケットのフリーを、freeだと理解しているようにも思われます。そしてその理解が「あながち間違っていない」事情もあるのです。
日本語に英語経由でフリーマーケットという言葉が伝わったのは1975年~76年のことでした。当時の雑誌において、米国における新しい社会風俗としてこの言葉が紹介されたのです。
そして、1979年に大阪で日本初のフリーマーケットが開催されることになりました。
実はこのイベントの開催時に、すでに「第一回フリーマーケット(Free Market)」という名称が使われていたのです。
英語表記のつづりを注意深く見ると、fleaとすべき表記がfreeになっていることが分かります。
この表記について、同イベントを開催した日本フリーマーケット協会のウェブサイトに、以下のような説明がありました。
「本来『蚤の市』と訳される『Flea Market』を日本で開催するにあたり、誰もが気軽に参加出来るように親しみをこめて『Free Market』とし(中略)商標登録・サービスマーク等の登録を行っています」。
この観点に立つならば、フリーマーケットのフリーをfreeと解釈することも、あながち間違いではないのかも知れません。
ではfree marketとはどういう意味?
ちなみに、英語でfree marketと表現すると、それは何を意味することになるのでしょうか?
その答えは英和辞典に載っています。例えばウィズダム英和辞典(三省堂)には「〘経〙自由市場 (フリーマーケットはノミの市のこと; → flea market) .」とありました。わざわざ蚤の市のことまで書いてありますね。
解説にある「自由市場」とは経済学の用語のひとつ。誰もが自由に取引できる市場を意味する言葉で、「計画経済」(国家が完全に主導する経済運営)の反対語です。
蚤の市のつもりで「free market」と言ってしまうと、ずいぶん堅苦しい意味に変わってしまうので、注意が必要でしょう。
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