34年間も停滞してたのかという、ため息のほうが、むしろ当たっているというのが実状である。すべて「安いぞニッポン」を象徴しているだけである。日本のGDPはドイツに抜かれて4位に転落したという事実こそが今の日本の経済実態を反映している。
今回の順位の転落を2010年に中国に抜かれた時以上の衝撃で受け止めている人もいるようだが、日本のGDPの水準低下は短期的には超円安の影響、「異次元緩和」で日本を安売りしてきたツケが回っているということであるが、もっと深い原因がある。
ドイツの人口は、日本の3分の2なので国民一人当たり1.5倍の経済格差がついたことになる。しかも、ドイツの平均年間労働時間は日本より2割ほど短い。要は日本の労働生産性が低いということである。
それは一つに付加価値に結びつかない仕事が多すぎるからである。必要のない会議だとか資料作りだとか、喫煙タイムとか雑談タイムとか、意味のない休憩とかそれでいて「人手が足りない、人手不足だ」と言い続けている。
もう一つの本質はフルタイムで働いていない労働者を減らすことである。所得税の課税、配偶者控除の基準となる103万円や、年金の第3号被保険者でいるための上限130万円など、いわゆる「年収の壁」を取り除けば、不必要な就業時間調整はなくなる。
これ等の制度は、男性正社員と専業主婦の家庭を前提にした昭和の遺跡といえる。これをなくせば、女性の活躍にもつながるはずである。
半世紀にわたって掲げてきた「経済大国ニッポン」の金看板をいよいよ下ろさねばならない時がきたようである。GDPランキングでドイツに抜かれ、5位インドに抜かれるのも2、3年先といわれる。インドは日本の人口の10数倍なので抜かれても、日本にとっては前向きなことだと思うことだ。インド経済が成長すれば貿易を通じて日本にプラスの影響を及ぼすほうが大きいと、順位の心配より、世界が開かれた貿易が出来るような外交努力をする方が賢明である。
ニッポンがどんどん安くなっているというコラムを1年ほど前に掲載したがその後の昨年の23年にはその要因として「物価が高くなる」「人手が足りなくなる」「外国人が増えている」「企業の不祥事が止まらない」という四つの現象が進んでいる。四つの現象に共通することは1ドル=150円に急速に進んだ「円安」を要因としている。
世界中でほぼ同じものが売られてるマクドナルドの「ビックマック」はビックマック指数として国々の平均購買力単価を表しているが、日本の値段は多くの新興国よりも今は安くなっている。平均賃金では韓国に抜かれ、一人当たりのGDPでは先進国中最下位までに、日本の経済的地位は低下した。
背景に、世界でも最速のペースで進む少子高齢化がある。老後への不安などから金回りが悪くなり、「デフレ経済」が長く続いた。コロナ禍が収まると世界経済は一気に活性化してインフレが進み、利上げも進んだのに対して、日本は景気や金利で取り残される形となり円安が進んだ。円安や戦争によるエネルギー価格の高騰で物価高が家計を直撃。一方で賃金の上昇は鈍く物価の影響、諸税や社会保険料の増加の影響を差し引いた「実質賃金」は下がり続けて国内消費を冷やしている。イノベーションもないまま縮小する国内市場で競争する企業の経営者達は、リストラや無理なノルマで苦しい現状を乗り切る発想に陥りがちで、ビッグモーターやその周りの損保やダイハツなどで相次いだ不祥事の背景にはこうした構造問題もある。
旧ジャニーズ事務所の性加害問題や、技能実習生をめぐる様々な外国人労働者への迫害などは日本企業の「人権意識の稚拙さ」を国際的にも露呈してしまった。もちろん、円安も悪い影響ばかりとはいえない。日本旅行が海外で割安となり、株価が割安となり、不動産価格が割安となり、インバウンドも海外からの投資も絶好調を迎えている。
これからの日本は、人手不足がさらに深刻化する、減りゆく「働き手」を高齢者や外国人の労働参加、AIやロボットなどのテクノロジーの力で補う「我慢の時代」がやってくる。多様性を広め、広く海外からの観光客と共に人材を集め、「課題先進国」だからこその、起こせるイノベーションで、「ピンチをチャンスに変える発想」は昔からの日本のお家芸で、幾度となく国難を乗り越えてきた強みを今こそ発揮すべきであると思われる。