AI

1.コロナとの戦いは世界大戦であるからまだ2、3年続く

人類の誕生からその成長を永続させた「共存的社会性」という根源的な知恵が「人間社会」の存続の可能性を支えた。

その「人間社会」というカテゴリーがここ数千年の長い間、ゆっくりといたるところで自己増殖を繰り返しながら、膨大な肥大化を推し進めてきた。

人類は21世紀に入り、いつのまにかその肥大化が猛スピードで走行をはじめ、制御不能になりつつある。

そこで、出現した世界的新型コロナ・パンデミックがこの猛スピードに急ブレーキをかけ、その衝撃が世界的な「人間社会」の分断をもたらす予兆を示し始めている。

米中の対立の構図はこのパンデミックで、むしろより先鋭化している。香港やミャンマーで民主主義が逆回転を始め、中国はより独裁下の強権性を強め、いたるとこで「異議」の抵抗を封じ込めている。

米国では、ヘイトクライムが頻発して、移民社会の軋轢を顕在化させている。

コロナウイルスは今まで、自由と民主主義の理念で取り繕ってきた米国社会の闇を浮き彫りにしている。

コロナウイルスは世界の各地で抑制されてきた、抗争、軋轢が溜まっていたマグマの導火線になりかねない危険な様相をはらんでいる。新型コロナという、モンスターが人間社会の負の本質をあぶりだす、カタリストになっている。

昨年の今頃、1年後がこうなっていることを予想した人は少なかったに違いない。

次々と変化して変異ウイルスとして、ワクチン効果から、はみだしてくるウイルス自体のしぶとい、生き残り戦争はまだまだ続くと冷静に、忍耐強く人間社会も備えるかである。

【心に平安をもたらす、唯一の方法は、最悪のシナリオを想定すること】
スイス生まれのイギリスのベストセラー作家で哲学者のアラン・ド・ボトンの言葉

後、2、3年はコロナ禍が続き、状況がさらに悪化しても不思議ではないと考えて、腹をくくる方が賢明なのかもしれない。

2.コロナ戦後に現れる文明のイノベーション

この様に繰り返してきた歴史のウイルス・パンデミックの暗黒社会をそれでも人類はその叡智で幾度となく克服してきた。

中世のペストの後に「ルネッサンス」が花開き、近代のコレラの後に「産業資本」が発達して、スペイン風邪の後に、「金融資本」が登場したように、ポストコロナの後に確実に押し寄せるのは「デジタル化社会」である。

巨大なグローバル化と究極のテクノロジー化への進展が行く衝く先のデジタル化は究極に、AIによる異質な「人間社会」の出現を予測し始めている。

最近のAIの進展を見ていると、単にチェスや将棋、囲碁で、もうすでに人間はAIに勝てることが不可能になったという次元は過去のニュースとなり、グーグルの画家AIは難解な抽象画を描き、音楽家AIはヒット曲を作れるようになり、歌手AIは人気歌手となるのはもう時間がかからない。

すでに、株式の高頻度な取引はAIトレーダーの独断場である。1万分の1秒という単位での取引など、人間に出来るわけがない。

かつてパソコンやインターネットが普及し始めた頃、世の中の識者達は「これで人間はつまらない労働から解放されるだろう。単純作業はこれらに任せて、より高度な創造的な仕事に集中できる」と言っていた。

果たしてそうなったかである。

AIの存在が注目し始めた頃、同じように識者達は、日常的な業務労働はAIによって仕事を奪われ、よりクリエイティブな職業でないと生き残れないと警告していた。

創造的な仕事は多くの意思決定を伴う。意思決定は困難で複雑で膨大な事例に精通していないと、失敗する成熟した社会となった。これまで、人間にしかできないと考えられてきた、高度な判断こそAIが長けているというモデルがいたるとこで出現しつつある。高度な意思決定は膨大なデーターを瞬時に読み取り、あらゆるリスクとシナリオの中から最適を選択するAIが行い、逆に人間に残されている活躍の場は、比較的に単純であるが人間的なコミュニケーションが求められる作業、飲食での接客や店舗での小売り、介護やイベント、エンタメ、リクレーション関連などになるかも知れない。

高度な意思決定はAIが行い、それを実現するための現場作業を人間が担うという「人間社会」がそう遠くない未来に出現する可能性がある。

人間の歴史とはそもそも、面倒なことを「アウトソース」する歴史である。人に直接伝えることは面倒なので飛脚を使い郵便の制度に発展させた。歩いていくのが面倒で、鉄道や自動車を開発した。面倒なことは外部化して楽をしていくというのが「人間社会」発達の原動力である。揉め事も面倒なので法制化して、代理人で解決する仕組みを作った。

道具や機械のハード面からソフト面に至るまでありとあらゆるものを「アウトソース」してきた。

最後に残ったものが、「思考」「意思決定」という人間そのものの根源である。その根源がアウトしてソースとなるのがAIである。おそらく意思決定の外部化はのぞむと、のぞまざるにかかわらず、意外と早いスピードで進む。人間の多くは意志決定が不得手である。進学でも、就職でも、結婚でも、他人に依存しがちである。自分で選択して間違えることを恐れるのである。特に最近は若者にこの傾向は顕著である。自分で決断する習慣がない。自己責任が嫌なのである。 AIの選択に従った方が、お金を損したり恥をかいたりしないで済むのであれば、意思決定はいずれもAIにゆだね始める。

意思決定のAI化で確かに表面的には社会は安全、安心化しはじめる。例えば、車の自動運転システムが導入されれば、間違いなく、事故は減る。死者は激減する。死者数は一番安全安心の説得力ある数値なので、おそらくこの自動車自動運転システムの導入を起点にして、社会は急速にAI化する。自動運転であらゆる関連する社会の現場が急変する。多くの作業と従事者が消滅する。コロナ・パンデミックの雇用減少どころの話ではないかも知れない。人々の行動と言動は監視カメラとITコミュニケーションのシナジーで分析、評価され始める。もちろんそのAIを支配する巨大IT企業があり、管理する政権があるのも現実である。その行き着く先は、バラ色か不幸かである。「考えること、思考と意志決定」の放棄に人間社会の未来はないと肝に命じることである。

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飯塚良治 (いいづかりょうじ)

株式会社アセットリード取締役会長。 オリックス信託銀行(現オリックス銀行)元常務。投資用不動産ローンのパイオニア。現在、数社のコンサルタント顧問と社員のビジネス教育・教養セミナー講師として活躍中。