香港の暴動がすさまじい。未熟国の暴動だと眺めているだけでは、社会的に見ても、歴史的に見ても人間としての想像力や感性が乏しすぎる。 あの100万人、200万人という若者を中心とする抵抗のエネルギ―はどこから来るのか。少なくても我が国ではここ数十年とみられない光景である。 自由への希求と人間の尊厳を守るために、立ち上がる熱気に、本当に人間にとっての大義は何かと考えさせられる。

久しく我が国では、与えられた自由の中で、身の回りのことにしか関心がいかない多くの人々が多数意見に同調し、少しでもはみ出す意見や行動を嫌悪する、典型的な大衆社会状況に何の疑問を持たないことで、平穏が保たれている。中国本土へ、いろいろな犯罪容疑者の引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案に反対することから始まったこのデモは、香港の民主化を守る戦いへと発展している。

香港はかつて、150年以上にわたってイギリスの植民地であった。当時の清朝政府から99年間租借で第二次大戦以後、イギリス領自治区として共産党の独裁となった中国本土と違って、自由な活気ある貿易港として世界の中で発展してきた。1999年の租借終了で、イギリスと中国共産党政府との協議で返還後も50年間は1国2制度で高い自治制度が保証された。返還時にはまだまだ貧困国であった中国が香港の高い経済力や海外に開放されている観光地としての香港を利用することで自国発展のバネにしたいと、50年間の自由を保証していた。

その間の20年で大国となった中国が香港も自国の法制内に取り込もうという政治力が香港の自由と民主主義を骨抜きにする強権となって今回の香港市民の抵抗の背景になっている。
既に中国本土に批判的な書籍を置く書店の店員が次々と姿を消した事件や、香港の経営者や富豪が本土で度度、拘束される事件が多発している。

少し前であるが、デモ参加者が国際空港を占拠して空港の国際線がマヒした映像がメディアで流れたが、その時大きなロビーに集まり、市民がある有名な抵抗歌を大合唱している光景を筆者は目に(耳に)した。

ミュージカル「レ・ミゼラブル」で歌われる有名な劇中歌である。「レ・ミゼラブル」は1832年にパリで起きた6月の民衆暴動までを描いた作品である。

歌のタイトルは「民衆の歌( Do You Hear the People Sing?)」で人々にー戦えーと呼びかけるものだ。この歌は2014年の民主化デモ(雨傘運動)でも歌われていた。中国政府はこの歌を本土で禁止しているとのこと。

この有名な抵抗の歌を聴いて筆者も50年以上前の我が国での光景を思い出した。あの時代に学生たちの反乱が我が国でも盛り上がり、ベトナム反戦運動のメッカであった新宿駅西口地下広場に集まって反戦のフォークソングが連日連夜歌われていた光景である。 西口広場は今の様な店舗もなく数万人がいつも集まってこの国でも抗議の熱気が国のほとんどの大学に充満していた。その功罪はともかくとして、あの1960年代後半の日本の学生達は世界で一番の跳ね返りモノとして世界中の評判を集めた。それを懐かしがるわけではないが、あのエネルギーが我が国の若者から消えてすでに半世紀が経過した。この国の自由と平和が脅かされる時、今の若者が立ち上がる素地は残されているのだろうか。


The following two tabs change content below.

飯塚良治 (いいづかりょうじ)

株式会社アセットリード取締役会長。 オリックス信託銀行(現オリックス銀行)元常務。投資用不動産ローンのパイオニア。現在、数社のコンサルタント顧問と社員のビジネス教育・教養セミナー講師として活躍中。