南アフリカで始まった、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」は、あっというまに世界に拡散して欧米で猛威を振るい始めている。我が国でも懸念されていた市中感染が始まり、その感染力の強さから、年末年始にかけて今まで以上に感染拡大が急速に広がることが想定される。いわゆる第6波は想定を超えて押し寄せると見て間違いないだろう。

第5波の収束が日本では、考えられないほど極端に縮小したので、感染予防規律の国民的属性や、ワクチン接種のスピードと浸透性を自画自賛する風潮が広がり、至る所で緩みを生みつつあったが、それに冷や水を浴びせるような、変異ウイルスの攻撃が新たに始まった。

一方で、世界の感染状況をつぶさに観測していると、この「オミクロン株」の特性が各国の研究機関での分析が開示されつつある。それが同じ傾向を示しつつある。南アフリカや英国の研究機関は「重症化や入院のリスク」が低いとの研究結果を相次いで公表している。南アの国立伝染病研究所の報告によるとオミクロン型で入院が必要になる割合は2%台で他の感染と比べて8割低く、重症化のリスクはデルタ型より7割低いと。

オミクロン型は感染力は強く急速に広がるが、南アのウィットウォーターズランド大学の研究者の見解として「波は短く、入院や死亡に関しては、さほど激しいものではないと」伝えている。英エディンバラ大学の研究者もオミクロン型による入院の可能性は、デルタ型に比べると3分の1に下がるとの結果をまとめている。ただ感染力は強く、感染が増え続ければ、率は低くても、絶対数は上昇し、医療逼迫もあり得ると警告している。

いろいろと懸念が広がるオミクロン株であるが、一方で経口薬として米メルクの「モルヌピラビル」は日本でも薬事承認されて、重症化を押さえる飲み薬が利用出来るようになった。また、ファイザーが開発中の「パクスロビド」も飲み薬で、米国では緊急承認された。どちらも発症から1週間以内に服用することで重症化のリスクを防ぐということである。

この他日本の塩野義製薬が開発している経口薬も、まもなく実用化されようとしている。またワクチンの3回目接種も効果があると証明されつつある。このような治療が次第に効果を発揮しつつあるなか、先ほども指摘した、各所から聞こえてきた「重症化しづらい」という情報である。

もちろん、ほとんどが軽症だとすれば、市中には把握されているよりもっと感染は広がっているだろう。風邪だと思い込んで、検査を受けていない人も多いはずだからだ。

ウイルスは一般に、変異を繰り返すたびに感染力は高まる一方で、弱毒化していくという法則をもつとのことである。

そういえば、日本での急激な第5波の終息はあまりに極端で、世界中のメディアでも注目され「不思議な成功」とまでいわれていることである。その原因について専門家の学者でさえ首を捻ることであるが、このデルタ株の日本の第5波におけるほぼ消滅状態は、世界の専門家の説で今、大勢を占めるのが「エラーカタストロフの限界」という理論である。

ドイツのノーベル賞学者アゲイン博士が50年前に提唱したもので、簡単に言うと「ウイルスは変異しすぎると自滅する」という理論である。

ウイルスが増殖する際、複数のミスが起こると、変異株が生まれ、デルタ株のような強い複製能力を持つ変異株が生まれたのも元々はミスコピーの結果である。増殖が速ければ速いほど、それだけ多くの複製ミスが起こり、その結果、ある限界を超えると、今度はそのウイルスの生存に必要な遺伝子までも壊してしまい、ウイルスが自壊する、これがエラーカタストロフの限界理論である。

次に出現した変異株の「オミクロン株」はさらに一層強い感染力を持つゆえに、ウイルス学の一般理論である「感染力と毒性は反比例する」という段階にきている。

ウイルスは宿主(ヒト)の細胞内でしか生存できないから、宿主を瞬時に殺してしまうぐらい毒性が強いと、他の個体に感染する間もなくウイルス自身が死滅してしまう。

ウイルスは自分自身の生存のために宿主(ヒト)を温存して、生き続けるように変化するということである。

ということはやがて新型コロナもただの風邪のウイルスに代わっていくということであり、オミクロン株はそのもう一歩手前だということである。

そう考えると、この壮絶な戦いは最終章を迎えつつあるという、希望が見えてくる。 だが一方で、私たちが力を尽くすべきは、3回目のブースター接種を早く行い、無症状でのPCR検査を普及させ、早期に治療を開始できる体制を整備させることである。

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飯塚良治 (いいづかりょうじ)

株式会社アセットリード取締役会長。 オリックス信託銀行(現オリックス銀行)元常務。投資用不動産ローンのパイオニア。現在、数社のコンサルタント顧問と社員のビジネス教育・教養セミナー講師として活躍中。