リソースという言葉があります。資源という意味です。 ビジネスの場面では、やれ「リソースを集中させて事(こと)に当たろう」だの、やれ「我が社のリソースを活用しよう」だの、一見不必要に思えるカタカナ表現を登場させる人もいますよね。 筆者もどちらかというと「そちら側」の人間のひとりです。 ただ筆者には、こういった「リソースの登場場面」が「やむを得ずそう表現している場面」に見えることがあるのです。 筆者が考える「やむを得ない事情」について、ちょっとだけ、説明させてください。

 

リソースとは「資源」のことである

まずはリソースという言葉から説明しましょう。リソースは英語のresouceがカタカナ語になったもの。

英語のresouceには「資源」という意味のほか「教材」「資産・財産」「資質・性質」などの意味もあります。

ただ日本語で登場するリソースは、ほとんどの場合において「資源」という訳語を充てればちゃんと意味が通ります。

冒頭で紹介した例文も「資源を集中させて事に当たろう」とか「我が社の資源を活用しよう」と表現すれば、おおまかな意味だけは掴めるのではないでしょうか。

ちなみにカタカナ語のリソースには、様々な慣用表現が存在するので、それを覚えておくと、より使い勝手が良いかもしれません。

例えば例文で登場した「リソースを集中する」「リソースを活用する」のほかにも、「リソースを追加する」「リソースを管理する」「リソースが不足している」「リソースを確保する」「リソースを消費する」といった表現が可能です。

いずれの表現も、リソースを資源に置き換えれば、より分かりやすい表現になる点も併せて理解しておいてください。

「資源」と言われて想像するもの

ところで皆さんは「資源」という言葉から、具体的にどんなものごとを想像しますか? 石炭、石油、鉄鉱などの地下資源でしょうか。

生活や産業に欠かせない水資源でしょうか。それとも森林資源や水産資源や海洋資源を想像するでしょうか?

ちなみにこれらの資源は、全部ひっくるめて「天然資源」と呼ぶことができます。

しかし私達が「資源」と呼ぶものは、天然資源だけとは限りません。例えば経営の分野では、人・物・金・時間・情報などを経営資源と呼んでいます。

また景色や名所などの観光資源、コンピューターの分野でいう計算資源なども「資源」と呼びます。「資源」が表す対象は実にさまざまです。

ここにリソース濫用の原因が潜んでいるように筆者は想像しています。例えば「我が社の『資源』を新規事業に集約させる」と言おうとした人は、こう思うかもしれません。

「聞き手や読み手は資源という言葉から、天然資源ではなくヒト・モノ・カネを想像できるだろうか?」と。

あるいは「観光客誘致のため地元の豊富な資源を活用しよう」と言おうとした人は、こう思うかもしれません。

「聞き手や読み手は資源という言葉から、天然資源ではなく景色や名所などを想像できるだろうか」と。

とりわけ言及対象が物質ではなく、景色・時間・メモリ容量などの「目に見えない資源」である場合、その懸念はさらに高まることになりそうです。

そういう背景で「リソース」が便利に使われている事情があるような気がするのです。

リソースをわかりやすく言い換える方法

もしそんな場面でリソースという表現を避けるのであれば、愚直に「具体的な資源名」を述べるしかないと思っています。

本コラムのここまでの文章で登場した、天然資源・経営資源・観光資源・計算資源などの言葉も、言い換えの参考になるかもしれません。

また経営資源であれば、もっと具体的に「人・物・金・時間・情報」などと言い換えるのも良いでしょう。

計算資源なら「CPU時間・メモリー占有量」といった感じです。

「自分のリソースにも限りがある」を「自分の余力にも限りがある」と言い換える事例のように「よくよく考えてみたら簡単な言い換え方法が存在する」パターンもありますので、じっくり考えてみると面白いと思います。

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もり・ひろし

新語ウォッチャー。1968年生まれ。電気通信大学卒。CSK総合研究所(現CRI・ミドルウェア)を経て、新語・流行語専門のフリーライターに。辞書・雑誌・ウェブサイトなどでの執筆活動を行う。代表的連載に日経ビジネスオンライン(日経BP社)の「社会を映し出すコトバたち」、現代用語の基礎知識(自由国民社)の「流行観測」欄など。