世界的な新型コロナのパンデミックが3年経過して、ようやく落ち着きを取り戻した3月24日、デジタル社会の立役者であったインテル創業者のゴードン・ムーア氏が94歳で他界した。

「ITの父」と言われたレジェンドは、その功績と共に「ムーアの法則」の提唱者として世界に広く知られている。1965年に提唱された「集積回路上のトランジスタ数は2年ごとに倍になる」という法則は、半導体の性能は2年ごとに倍に向上するという法則として半導体産業のガイドライン的な存在となり、この法則通りにまさしく半導体の性能は向上を続け、インテルは1992年以降世界一位の半導体メーカーに発展し、特に世界のパソコン向けのCPUの市場では現時点でも60%近いシェアーを維持するほど、インテルを知らない人はいないほどの成長をなしとげた。

ムーア氏はそうした世界のパソコン市場、デジタル市場の発展を技術的に支えてきた父であり、同氏の操業がなければ今日のデジタル社会はなかったかもしれないといわれるIT業界の巨人である。

ムーアの法則通り50年前に打ち上げられたアポロ17号が搭載してた巨大なコンピューターの性能は、今は手のひらサイズのスマートフォンの性能が1000万倍であることにその法則の予見可能性の正しさが証明されている。

IT技術の発展とともに、確かに人類は生活や仕事や、教育医療など様々な分野で飛躍的な便利さと安心を手に入れてきた。

ムーアの逝去と同じ時期に多くのメディアでAI(人口知能)を使ってチャット形式で会話が出来る「ChatGPT」が世界中で大変な反響を呼んでいる。テキスト自動作成AIといわれAIの研究開発を手掛ける「米オープンAI」が2022年12月に無料で一般公開した。公開からわずか6日後には利用者が100万人と突破して3か月後には世界で利用者1億人になるほどのスピードで拡大している。

この注目すべきはごく自然な会話を専門家としているように出来ることであるといわれる。日常会話のような言い回しと適切な論理構成によってまるで人間と対話しているかのように会話が進む、日常の疑問から専門的な質問、哲学的な問いから文学的な表現まで素早く回答してくるという。

しかも、膨大なデーターや経験の反復により進化のスピードはもはやムーアの法則をはるかに飛び越えてきてるという。その進化はコールセンターやカスタマーサービスの人間の業務の大半はいずれ不要にさせるであろう。

働く人々が直面する問題は明白である。高いコミュニケーション能力を必要とする仕事が減れば、高収入の仕事も減る。清掃員や調理師などの肉体労働系の職種は維持されるがそれ以外の人々は誰もが先を心配した方がよい。

チャットGPTのような技術は従来のインターネットのありかたを根本から変えてくるだろう。問題の緊急性は以前より高まっている米国の研究機関がAIの開発停止を求める署名運動をオンライン上で始め注目を集めている。すべての研究機関に少なくとも半年間研究開発を停止するよう求める内容で、多くの著名人が賛同しているという。このままAIの開発を進めれば人類に深刻なリスクをもたらす恐れがあるとして開発停止の期間中に規制面の整備を進めるべきだとうったえている。

一方、イタリアではデーター保護当局が「チャットGPT」の使用を一時的に禁止すると発表した。膨大な個人データーの収集が行われており、個人情報保護法に違反する疑いがあるという。AIの訓練のために、必要となる膨大な個人情報を法的根拠なしに集めているという可能性が大であるということだ。

欧州刑事警察機構は27日、フィッシング詐欺や偽情報、サイバー犯罪に悪用される恐れがあるとする報告書を発表。リアリティーある文章を、短時間に量産する能力は、うそを信じ込ませたりプロパガンダを拡散させるのに、理想的なツールであり、反社グループにとっては願ってもないツールとなる恐れありと警告した。

また中国では中国科学技術部は2月24日の記者会見でチャットGPTに対して、自然言語処理能力など技術面の強みを評価した上で「科学的成果は両面性があり、倫理面での対応が必要である」と強調した。倫理面での措置を取り、科学技術の発展に伴うデメリットを防ぐとともに、メリットは充分発揮させると説明した。

中国ではAI中核産業の規模が5000億元(10兆円)の規模に達しており、企業数が4000社になると言われている。

そもそもこのチャットGPTは米の「オープンAI」社の開発で、後ろでマイクロソフトが巨額の投資をおこなっている。

今後を含めて1兆5千憶の投資を予定しているといわれる。

「自然でわかりやすい答えを教えてくれるチャットGPTが普及すれば、ユーザーはキーワード検索しなくなる」というインターネット上のグーグル検索の支配を打ち破ろうとする、マイクロソフトの戦略である。

一方ネット・デジタル産業では大きな後れをとる日本では、河野太郎デジタル相が3月31日の会見で「デジタル庁としてAIを活用してそのための人材を採用とする」という、なんとなくお目出たいノー天気な発言であった。

歴史上数々の技術革新とインベーションが行われるたびに、人類は当初これは多くの職業を奪うと抵抗したものである。しかしその発明発見のおかげで従来の仕事は奪われる以上に新しい産業と仕事を生み出し、多くの雇用を実現させてきた。そのテクノロジー発展の歴史と同次元でこの一連の新しいイノベーションを捉えていいものか、熟考が必要と思われる。なにせ今度は人間の根源の能力を代替えしようとする領域での究極的に神を恐れぬ仕業(笑)の諸行である。科学技術の最終的な製造成果が原子力・核であったように、それは使用してはならない兵器となった。

デジタルAIテクノロジーの最終発明成果がアバターや人間クローンの出現ならこれも禁止するに値すると思われるが、皆さんのご意見は如何か?

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飯塚良治 (いいづかりょうじ)

株式会社アセットリード取締役会長。 オリックス信託銀行(現オリックス銀行)元常務。投資用不動産ローンのパイオニア。現在、数社のコンサルタント顧問と社員のビジネス教育・教養セミナー講師として活躍中。