日本では長時間労働が原因で過労死や自殺に追い込まれる人の増加が社会問題となっています。 また、非正規雇用者に対する処遇の低さも問題視されています。そこで、安倍首相率いる第2次改造内閣、第3次内閣では「一億総活躍社会」を目指して「働き方改革」を打ち出し、問題の対処に当たろうとしてきました。 働き方改革では多様な働き方を実現し、中間層の厚みを増しつつも格差が固定化しない社会を目指しています。 ただ、成長と分配の好循環が実現すればより良い社会になるはずですが、個人や企業努力だけではなかなか実現は難しいのが実情です。 そこで、働く人の立場や視点で取り組んでいく国レベルの対策として働き方改革は期待されています。果たして日本人の労働環境はよくなっていくのでしょうか。

国民の労働の見直しを図る働き方改革

政府は長時間労働の解消や非正規雇用者の待遇改善を目標に掲げて「働き方改革」という政策を打ち出しました。また、多様な働き方の実現で少子高齢化対策にもつながると考えています。

長時間労働を解消するのがひとつのカギ

安倍内閣は国の抱える問題が大きく2つあるという理由から働き方改革を打ち出しました。そのひとつが正規雇用者の長時間労働です。

長時間労働を原因とする正規雇用者の過労死や自殺がニュースでたびたび報道され、“働きすぎ”によるさまざまな問題が噴出している状況だと言えます。

そのため、正規雇用者を守るためにも、一刻も早く職場環境を是正しなければなりません。

そこで、政府は週49時間以上働いている労働者が2割存在するといわれている現状を、働き方改革によって1割に引き下げることを目標に掲げています。

非正規雇用者の待遇改善も働き方改革の大事な柱

国が抱えている問題のうち、働き方改革として考えなければいけないもうひとつの柱は、非正規雇用者の扱いです。非正規雇用者は2015年時点で雇用者の約4割を占めていました。

実際の職場で非正規雇用者の行う業務や勤務時間は正規雇用者とほぼ同等であるにもかかわらず、時間当たりの賃金は正規雇用者の6割程度にとどまっています。

政府の働き方改革では、こうした格差を是正するために、非正規雇用者の賃金を正規雇用者の7割~8割になるよう引き上げることを目標として設定しました。

また、正規雇用者と非正規雇用者の待遇差が合理的かどうかのガイドライン策定や法改正の準備にも着手しています。

多様な働き方の実現と少子高齢化対策も大切なポイント

働き方改革を進めることでもうひとつ効果を期待したいのが「少子高齢化の防止」です。少子高齢化を防止するためには多様な働き方を実現することが大切なポイントのひとつになります。

女性の場合、出産することで仕事と家事・育児の両立が難しくなり、離職してしまうケースがあります。

しかし、労働環境が見直されて経済的・時間的に余裕が持てるようになれば、女性の出産へのハードルも下がるはずです。

また、出産後に在宅勤務などのテレワークの制度を利用することができれば育児もしやすくなり、政府は出生率が上昇すると想定しています。その結果、働き方改革によって国民の生活が豊かになるというのが政府の考えです。

表面的な改革ではまるで意味がない

働き方改革を実施したとしても、表面的な改革では本当に改革できたとは言えません。また、大企業だけではなく日本の労働者の多数を占める中小企業の労働者の働き方まで変えられる政策である必要があります。

安易に残業時間を削減して仕事が滞っては意味がない

政府の掲げる働き方改革がすべて順調にいけば、理想の社会が構築できそうです。しかし、果たして本当に政府の言うように成功するのでしょうか。

社会を改革していこうとするときに重要なのは、実現できるかどうかで机上の空論に終わらないことです。

実際に成果が出たかどうか数値として表しやすいのは「残業時間削減」ですが、残業時間が削減されても業務量が変わらなければ業務を完遂するのが難しくなります。

つまり、残業時間だけを安易に減らして残業時間削減の目標を達成したとしても、仕事自体が滞ってしまうというおそれもあるのです。

広告でも残業時間削減を皮肉るものが…

グループウェアシステムを取り扱うサイボウズが開発しているビジネスアプリ作成プラットフォーム「kintone(キントーン)」では、次のような残業時間削減を謳った広告が話題を呼びました。

「ノー残業、楽勝!予算達成しなくていいならね」「さようなら深夜残業。こんにちは早朝勤務。(苦笑)」などのように、皮肉を効かせた表現で労働者側の気持ちを如実に表した広告です。

この広告からも、安易に残業時間を削ることが個人から仕事の裁量を奪うことにつながりかねないことを示唆しています。

中小企業の労働者が実感できる働き方改革を

大手企業は比較的政府の意向を反映させやすく、残業削減にも動くことができる可能性が高いでしょう。

ただ、その分だけ残業時間削減が難しい中小企業にしわ寄せがきて、リソースを大幅にオーバーしてしまう可能性があります。

中小企業も含めた社会全体でうまく機能して初めて改革が成功したと判断できるのであり、大企業だけが実現可能な表面的な改革では意味がありません。

実際に日本全体をみてみると、99%を占めているのは中小企業で働く労働者です。そのため、中小企業で働く労働者が効果を実感できる働き方改革でなければ意味がないと言えるでしょう。

制度導入で多様な働き方を提供する企業も

制度を導入することで、実際に多様な働き方を提供している企業も増えてきています。ただ、制度にだけ頼っていても働き方改革は実現しません。労働者一人ひとりの意識も大切なのです。

労働者一人ひとりも意識を持つことが大切

残業時間削減やワークライフバランスを表面的なことだけで叫んでいるだけでは意味がないということを見てきました。

政府の施策や企業が対策を施してくれるのに期待したいところですが、現実には国や企業だけに任せきりにしておくわけにもいきません。

本当に労働者が働きやすい最適の環境の整えようと考えたら、労働者一人ひとりも当事者意識を持って働き方を変えていこうとする取り組みをすることが大切です。

改革に取り組んでいる企業はすでに6割

エン・ジャパン株式会社が「働き方改革に関するアンケート調査」を2017年に行ったところ「改革に取り組んでいる」と回答した企業の割合が60%に上っていました。

すでに時短勤務やテレワークなど多様な働き方ができる仕組みを整え、育児休暇などの制度を積極的に取り入れている企業もあります。

そして、業務の効率化や従業員の満足度向上を図る制度を導入している企業では、従業員自らが働き方の改善を希望することで実現しているのです。

労働者一人ひとりが改善に取り組もうとする意識が改革につながる

国や企業任せではなく、労働者一人ひとりが当事者意識を持ち、自身の働き方について意見をはっきり言える社会であることが理想です。

そうすることで、改革が必要な労働環境を是正していくことにつながり、多様な働き方も実現できます。

働き方改革は、形として政府や企業が制度を導入することが重要なのではありません。労働者一人ひとりがまずは「もっといい環境で働きたい」という想いを持つことが大切です。

そして、実際の労働環境のなかで改善に取り組んでいくことが重要になるでしょう。

形だけの制度にならず労働者も意識を持つことが大切な働き方改革

安倍内閣が実現しようとしている働き方改革が実現すれば、労働者の負担を減らしながら社会も良くなっていくはずです。

ただ、大企業では取り入れられる制度であっても、日本で多くの割合を占める中小企業が実現不可能ならば意味はなく、形だけ制度を導入しても本当に実現したいあるべき姿はなかなか叶いません。

また、現実味のある制度として活かすためには、労働者一人ひとりも意識を高め、改革に取り組む姿勢を持つことが大切になるでしょう。

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