手取り収入から引かれる税金と社会保険料を見てみよう
手取り収入が増えていない、または少なくなっていると感じる理由はずばり「税金」と「社会保険料」の増加が原因です。
まず、給与から引かれる税金と社会保険料の内訳を見てみましょう。
サラリーマンの手取り収入から引かれる(控除される)もの
・税金
- 所得税……課税所得(給与収入から各種所得控除や必要経費を差し引いた金額)に所得税率を掛け合わせ、税額控除額を差し引いた金額
- 住民税(道府県民税・市町村民税)……均等割額(所得に関わらず一律)と所得割額(前年の所得から各所得控除や必要経費を差し引いて算出)の合計金額
・社会保険料
- 健康保険料……給与やボーナスに一定の保険料率(加入先の健康保険により異なる)を掛け合わせた金額。雇用主と折半した金額を従業員が支払う
- 厚生年金保険料……給与やボーナスに一定の保険料率を掛け合わせた金額。雇用主と折半した金額を従業員が支払う
- 雇用保険料……毎月の給与に雇用保険料率を掛け合わせた金額
- 介護保険料(40歳~64歳の場合)……給与やボーナスに一定の保険料率(加入先の健康保険により異なる)を掛け合わせた金額。65歳以上は計算方法が異なる
税金も社会保険料の計算も、基本的に給与やボーナスといった収入をベースに計算されており、所得税などの計算で用いる各種控除には扶養家族の有無が大きく関係します。
しかし、実際には給与も家族構成(扶養家族の人数)も変わっていないのに、年々手取り収入が少なくなっている人もいるのです。それはなぜでしょうか。
サラリーマンの手取り収入が増えない理由は度重なる制度改正
給与や家族構成(扶養家族の人数)は手取り収入に大きく影響します。
しかし、給与も家族構成も変わっていないのに手取り収入が少なくなっている人もいます。それは度重なる税制改正や厚生年金保険料の値上げによるものです。
税制改正や厚生年金保険料値上げの歴史
- 2004年~2005年→配偶者特別控除の改正により、専業主婦やパート妻のいる夫の所得税・住民税が増えた
- 2006年~2007年→定率減税(減税措置)が廃止され、所得税と住民税が増えた
- 2011年~2012年→中学生以下の子どもがいる人は扶養控除が廃止され、高校生の子どもがいる人は扶養控除が縮小され、結果的にどちらの世帯も所得税・住民税が増えた
- 2013年→東日本大震災による復興財源として、2013年より約25年間、所得税が2.1%上乗せになった
- 2014年→東日本大震災による復興財源として、2014年より約10年間、住民税の均等割りが1000円増えることになった
- 2004年~2017年→厚生年金保険料率が毎年引き上げされた
- 2018年→配偶者控除と配偶者特別控除の適用条件が改正され、一部の高所得世帯は所得税が増えた
出典
所得税 改正のあらまし関係(国税庁)
税制改正の概要(財務省)
上記の歴史を見ていただいてもわかるとおり、ここ15年の間に手取り収入から引かれる税金や厚生年金保険料はたびたび引き上げられてきました。
その結果、基本給は上がっているのに手取り収入はあまり変わらない人、給与も家族構成も変わっていないのに手取り収入が減っている人がでてきたのです。
一方で、税制改正によって今の児童手当(15歳以下の子を持つ世帯への金銭支給)ができ、2019年の消費税増税によって保育・幼児教育の無償化(3歳~5歳の保育料・幼稚園代が所得問わず無償になる)が実現することも事実です。
子育て世帯などはこれらの少子化対策などで制度改正の恩恵を受けられるということになります。
ただ、一時的な恩恵を受けられたとしても、このまま少子化が加速していけば再び厚生年金保険料率が上がることになるかもしれませんし、トータルで見れば引かれる金額の方がどんどん上がっていくのではないでしょうか。
つまり、何もしなければどんどん収入が減り、支払う金額が増えていくばかりなのです。
今できることは、手取り収入を減らさず、少しでも増やすための対策をしておくことです。
手取り収入を増やすには「収入を増やす」か「税金を減らす」しかない
サラリーマンが手取り収入を増やすには、入ってくるお金を増やすか、引かれるお金を減らすしかありません。
入ってくるお金=収入を増やす方法としては副業の実施や、基本給アップのためにスキルを磨くことなどがありますが、筆者はまず引かれるお金を減らす対策を先にすることをおすすめします。
なぜなら、副業や基本給で入ってくるお金を頑張って増やすと課税所得が上がり、その分引かれるお金(税金・社会保険料)も多くなってしまうからです。
今の日本の税制は高所得者からより税金を大きく取るという仕組みになっており、2018年の配偶者控除と配偶者特別控除の改正では、高所得者に大きなしわ寄せがきました。
まずは引かれるお金をできるだけ減らし、課税所得を上手にコントロールして手取り収入を増やすことから始めましょう。
引かれるお金とは税金と社会保険料ですが、サラリーマンの場合、社会保険料は給与やボ-ナスに連動しているため、コントロールができません。
つまり、まずすべき対策は税金を減らすことなのです。
税金を減らして手取り収入を増やす方法 おすすめ3選
税金対策といえば個人事業主などがしているイメージがあるかもしれません。しかし、サラリーマンでも税金を減らして手取り収入を減らすことは十分に可能です。
手取り収入を増やす方法の中で、筆者が特におすすめする方法を3つに厳選してお伝えします。
税金を減らすおすすめ方法3選
- 確定拠出年金(企業型/個人型)を利用する
∟老後資金を毎月一定額積み立てて(掛けて)いき、所得税・住民税を減らす方法 - 経済的なサポートをしている年金暮らしの親を扶養に入れる
∟親を税法上の扶養家族にして、所得税・住民税を減らす方法 - 医療費控除やセルフメディケーション税制を賢く利用する
∟1年間でかかった医療費か薬局で購入した薬代を確定申告し、所得税・住民税を減らす方法
いずれも所得税・住民税を減らす合法的な節税対策です。詳しく解説していきましょう。
確定拠出年金(企業型/個人型)を利用する
確定拠出年金(DC)とは、老後の資金準備をするための私的年金制度です。
企業型(企業型DC/日本版401K)と個人型(iDeCo/個人型DC)の制度があり、個人型のiDeCoは2017年1月に制度改正があり、20歳~59歳の人なら誰でも加入できるようになりました。
DCの大きな特徴は、加入する窓口(金融機関)で用意されている金融商品(預貯金/保険/投資信託など)を自分で自由に選び、運用していくことです。
企業型DC
・会社が導入する退職金・年金制度。会社が用意した窓口(金融機関)で加入し、掛金の支払いも会社が行う。金融商品の選択や運用は加入者本人が行う(個人で掛金を増額するマッチング拠出も可能)。
個人型DC(iDeCo)
・個人で加入する私的年金制度。加入する窓口(金融機関)の選択から掛金の支払い(金額の設定)、金融商品の選択や運用はすべて加入者本人が行う。
企業型DCが会社で導入されているサラリーマンの場合はDCについてご存知だと思いますので、ここでは個人型DCのiDeCoについてお話しします。
iDeCoをおすすめする理由
iDeCoの大きな特徴は、節税効果の高さです。
老後のために掛けた金額(掛金)がそのまま所得控除の対象になるだけでなく、運用益も非課税(通常、金融商品を運用して得た利益には20.315%の税金がかかります)なうえ、運用したお金を受け取るときには退職金や公的年金の税制が適用され、税金負担が安くなります。
節税制度としてつみたてNISAや現行NISAなどの投資制度もありますが、掛けた金額が税金から控除されるのはiDeCoだけです。
低金利が続く今、銀行預金をせっせと積み立ててもスズメの涙ほどの利息に20.315%の税金が課されてしまい、ただ預金するだけではお金をうまく増やすことができません。
iDeCoであれば元本確保型の預金・保険商品もあるので、ただ積み立てていくだけで大きな節税効果を得ることができるのです。
もちろん、iDeCoを利用するうえでいくつかの注意点もありますので、こちらも参考にしてくださいね。
iDeCo利用時の注意点
- 所得税と住民税が安くなる制度なので、住宅ローン控除を活用するなどしてすでに大きく節税している場合、思ったような節税効果が得られない可能性がある
- 加入する窓口(金融機関)へ毎月運用管理手数料を支払わなければいけない(最低でも月167円。金融機関によって手数料が異なるため、167円ですむ金融機関を探すこと)
- 元本確保型の商品だけを運用していると、元本割れになる恐れも。元本確保型の預金・保険商品とあわせて、投資信託などの運用商品をうまく組み合わせるのがおすすめ
- 60歳まで引き出せないため、教育資金や住宅資金に充てるのは難しい
経済的なサポートをしている年金暮らしの親を扶養に入れる
一緒に住んでいる親の生活費を支払っていたり、離れて暮らす親に一定額仕送りを送っていたりする場合、親の年金収入が一定額以下であれば税法上の扶養家族にすることが可能です。
年金暮らしの親(65歳以上)を税法上の扶養家族にする条件
・経済的なサポートをしており、年金収入がひとり年158万円以下(合計所得金額38万円)であること
条件を満たしていれば、65歳以上の親は38万円、70歳以上の親で48万円(同居は58万円)の扶養控除が受けられるため、所得税・住民税がその分安くなります。
今まで支払いしていたのに確定申告をしていなかった、という場合でも大丈夫。
確定申告は過去5年間にさかのぼることができるので、申告すれば過去の税金も取り戻すことができますよ。
出典
お年寄りを扶養している人が受けられる所得税の特例(国税庁)
扶養控除(国税庁)
医療費控除やセルフメディケーション税制を賢く利用する
1年間(1月1日~12月31日)にかかった医療費や薬局で購入した医薬品の金額によっては、税金負担を軽くすることが可能です。
両方を利用することはできませんので、その年の負担額によって使い分けるようにしましょう。
なお、医療費とは個人ではなく世帯全員の負担分が対象です。家族全員のかかった医療費はこまめにメモを取るか、レシートをおいておきましょう。(※確定申告にレシートは不要です)
医療費控除の適用条件
・1年間(1月1日~12月31日)にかかった医療費が10万円を超える場合
(所得が200万円以下なら所得の5%を超える場合)
※医療費の対象になるもの……薬局や医療機関で支払った医療費(健康保険対象)、医療機関に行くための交通費も対象になる
セルフメディケーション適用条件
・1年間(1月1日~12月31日)にスイッチOTC医薬品を年間税込1万2000円以上購入した場合
※スイッチOTC医薬品とは……医療用から一般用に転用された医薬品のうち、指定のもの(ほとんどの薬局で商品売り場やレシートに対象商品かどうかが記載されています)
医療費控除では妊娠・出産などの妊婦検診費も対象になるため、子どもが生まれた年は医療費控除を利用し、あまり出費がなかった年はセルフメディケーション税制を利用するなど、医療費の出費によって使い分けるようにしましょう。
まとめ
手取り収入がどんどん目減りしていく中で、サラリーマンにとっての節税対策は欠かせないものになっています。
サラリーマンをしていると税金も社会保険料も給与から天引きされているため、支払っている実感がないかもしれません。
しかし、ここでしっかり税金対策をしておけば、副業などで収入が上がったときに「思っていたより手取りが少ない。増えていない」という思いをせずにすみます。
収入を増やす前に、まずは引かれるお金を減らし、手取り収入を減らさない対策をしておきましょう。
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